心さへ空に乱れしゆきもよに_ (5)
酷い寒さで、うつらうつらとしているだけの夜が過ぎた。窓の外が薄明るくなってきて、無事に朝を迎られた事に安堵したけれど、「明日は雪が....。」そう言い残していったお爺さんの言葉を思い出し、外を覗いた。.....地面はかなり白くなり始めていて、空からは湿った雪が降り続いている。「鉄道員が来る前に出なくちゃ。」毛布を片付けながら、少年(私)はふと置き手紙を書こうと思った。ある意味「不法侵入」(これももう時効で...
春の夜の闇はあやなし_(4)
ほろ酔いの騎士は、愛馬・カブ号に乗って目の前に現れた。「何してんだ兄ちゃん?」見慣れない、地元民ではない事は直ぐ判った様だ。早い終電もとうに過ぎていて、列車に乗る客にも見えないだろう。細かく覚えていないんだけれど、とにかく路頭に迷っていると説明したのかな....。お爺さんは通りすぎる時に、たまたま人影が見えて戻った様だった。「じゃぁ、ちょっとこっちへついて来い。」そう言って駅脇の薄暗い方へ連れて行っ...
酒に酔いたる騎士あらはる_(3)
「孤独になるには、旅に出るのがいちばんさ。」スナフキンはそう言った。 僕はこの1年前、高校入学前の15歳の春も、房総を自転車で旅していた。その時は友人と二人で、しかも宿泊まり旅だったから寂しくは無かった。でも、もうその時から、人にペースを合わせる旅が窮屈に感じてたのだ。旅に出ている時しか自由になる事なんてなかなか無いじゃない?だから、この16歳の年から家族を持つまで、旅は常に独りでして来た。まぁね、旅...
初々しき旅人の、あやしう侍れば_(2)
我が懐かしき駅舎は、その当時から無人駅だったけど、今も現役。だから、近隣の方には日常風景ね。....どのくらい昇降客が居るのか知らないけど。ナビの言うままに走っていたら、何だか見慣れた景色が。「そこに駅があるから寄るね。」って車を向けたの。 「懐かしき」と云っても、大人になってからも車やバイクで結構訪れてたのだけど、初めて訪れたのは16歳の春休みのこと。自転車での独り旅で、日が沈んで、酷く寒くて、途方...