月はその時空にいた _ (8)

 二日目は、ホテルを拠点に何処かへ....。そんな思いは全く必要なかった様で、ホテルのプールで昼も夜も泳げれば良い!と云う子供達なのだった。すっかりと年老いてきた母も、部屋でゴロゴロしてるだけで良いと言う。ご飯はしっかり食べてくれるし、頭もしゃっきりしてるので不安は無いけど。あちこち連れ回して暑さで疲れさせるのもねぇ。 ナイトプールに入ると張り切っている娘の為に夕飯を早く食べ、僕はまたまた海へと散歩に...

ゆゑもなく海が見たくて海に来ぬ_ (7)

 辿り着いた午後遅くの海辺は、まだまだ夏の強い陽と熱い風が残っていた。白く光った海まで、砂原がずっと広がっている様に見え、崩れてしまった砂防の木材は、中国西域の砂漠に残された遺跡の様だ。.....まぁそれは大袈裟だわね。 何かしら生き物の気配を探してみるけれど、打ち寄せる波際にその気配は無い。でも磯の側には、巣穴から運び出した砂が広げられてていた。満潮時には此処まで波がやって来るみたい。そしてその直ぐ...

浜波はいやしくしくに高く寄すれど_ (6)

 かなりな脱線状態の思い出話に、どんだけ費やしてんのかしらね?大変スマなんだ。一番最初に書いた様に、これは家族旅行なのに....。ひとりでならもっと色々と見て回れるんだけど、流石にもうそれほど自由では無いのよね。 さて、月崎駅から久留里に抜けて、そこから鴨川市に抜けた。「シーワールド観る?」なんて聞いてみたら、「とにかく早くホテルに行ってプールに入りたい!」と娘さんの要求。....まだまだ遠いし、プールは...

心さへ空に乱れしゆきもよに_ (5)

 酷い寒さで、うつらうつらとしているだけの夜が過ぎた。窓の外が薄明るくなってきて、無事に朝を迎られた事に安堵したけれど、「明日は雪が....。」そう言い残していったお爺さんの言葉を思い出し、外を覗いた。.....地面はかなり白くなり始めていて、空からは湿った雪が降り続いている。「鉄道員が来る前に出なくちゃ。」毛布を片付けながら、少年(私)はふと置き手紙を書こうと思った。ある意味「不法侵入」(これももう時効で...

春の夜の闇はあやなし_(4)

 ほろ酔いの騎士は、愛馬・カブ号に乗って目の前に現れた。「何してんだ兄ちゃん?」見慣れない、地元民ではない事は直ぐ判った様だ。早い終電もとうに過ぎていて、列車に乗る客にも見えないだろう。細かく覚えていないんだけれど、とにかく路頭に迷っていると説明したのかな....。お爺さんは通りすぎる時に、たまたま人影が見えて戻った様だった。「じゃぁ、ちょっとこっちへついて来い。」そう言って駅脇の薄暗い方へ連れて行っ...

酒に酔いたる騎士あらはる_(3)

「孤独になるには、旅に出るのがいちばんさ。」スナフキンはそう言った。 僕はこの1年前、高校入学前の15歳の春も、房総を自転車で旅していた。その時は友人と二人で、しかも宿泊まり旅だったから寂しくは無かった。でも、もうその時から、人にペースを合わせる旅が窮屈に感じてたのだ。旅に出ている時しか自由になる事なんてなかなか無いじゃない?だから、この16歳の年から家族を持つまで、旅は常に独りでして来た。まぁね、旅...