春の夜の闇はあやなし_(4)

 ほろ酔いの騎士は、愛馬・カブ号に乗って目の前に現れた。

「何してんだ兄ちゃん?」
見慣れない、地元民ではない事は直ぐ判った様だ。
早い終電もとうに過ぎていて、列車に乗る客にも見えないだろう。

細かく覚えていないんだけれど、
とにかく路頭に迷っていると説明したのかな....。

お爺さんは通りすぎる時に、たまたま人影が見えて戻った様だった。



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「じゃぁ、ちょっとこっちへついて来い。」
そう言って駅脇の薄暗い方へ連れて行った。

奥には小さな小屋(今はもりらじおと云う、蔦の葉で覆われた建物)があって、
お爺さんは、入り口の脇の電気メーターか何か(今の箱じゃないね)をさぐり出した。

「此処は鉄道の保線の奴らの使う小屋で、俺は鉄道で働いていたんだ。」
そう言いながら小屋の鍵を取り出して僕を中に入れた。
毛布があるからそれを使えと言う。

「明日は雪が降るかも知れないそうだ。
 もし雪が降ると保線の奴らが来るから、その前には出るんだぞ。」

もう4月だというのに、異常な寒さは雪を降らす程の寒波のせいだったらしい。
そうしてほろ酔いの騎士は再び愛馬カブ号に乗って去って行った。



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 気持ちが落ち着いたら、川沿いに置いてきた自転車と荷物を思い出した。
この日は散々自転車を漕いできていたのと、さっきまでの心細さとで疲れ切っていたし、
駐めたのは道路から見えない所だから、誰も持っていく事も無いだろうと考えた。

小屋の中の畳の上で薄い毛布にくるまったけれど、
冷え切っていた身体はなかなか暖まらなかった。



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自由というモノは孤独で頼りないものだけど、こうして何か救いがあったりもする。

寒さに震えながら、ボンヤリとしてきた意識の中で、
浅い眠りを繰り返していた。



<更に続く!>

そしてカブ号の騎士再び!
.....ついて来られてますか?





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