心さへ空に乱れしゆきもよに_ (5)

 酷い寒さで、うつらうつらとしているだけの夜が過ぎた。

窓の外が薄明るくなってきて、無事に朝を迎られた事に安堵したけれど、
「明日は雪が....。」
そう言い残していったお爺さんの言葉を思い出し、外を覗いた。

.....地面はかなり白くなり始めていて、空からは湿った雪が降り続いている。

「鉄道員が来る前に出なくちゃ。」
毛布を片付けながら、少年(私)はふと置き手紙を書こうと思った。
ある意味「不法侵入」(これももう時効で良いでしょ?)なんだけれど、
取りあえず「一夜の宿を有難う」って書き残した。
(まぁ、まだ素直で初心だったのよね....。)



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 外に出ると、駅前にはまだ人影も無く、向かいのヤマザキのお店も開いていない。
自転車と荷物はどうなっているんだろう?
とにかく雪がドンドン積もり始めている道を歩かなくてはいけない。
その日の行程を思うと、かなり憂鬱だった。

すると、まさにその時、再び「カブ号」が現れたのだ!
「大丈夫だったか? もう人が来ちゃうからな。」
「有難う御座いました。助かりました。」
それで別れるんだと思ってお礼をした。

しかし、その老騎士は言うのだ。
「後ろに乗れ!」(これも時効で良いでしょ?)



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僕はこの日の行程を考えると少しでも早く自転車に戻りたかった。
でも、ある意味「命の恩人」な人の申し出を断るのは躊躇われた。

後ろに僕を乗せたカブ号は、懸念した通り、自転車と反対方向へと走り出した....。

お爺さん家に着くと、暖かい炬燵に入れてくれたが、少しも居心地が良くなかった。
こんな事云って申し訳ないのだが、お爺さんは以前も「僕の様な者」を拾ってきたらしい。
そしてお婆さん(奥さま)は甚く不満らしく、
「また変な奴拾ってきやがって!」
と云う態度が未熟な少年にも伝わってきた。

お爺さんもいたたまれない、まさにそんな感じで無言になっていた。
だから感謝しつつも、直ぐに退去となった。



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 今でもそのお爺さんの家は覚えている。
勿論年月を考えたら、お爺さんもお婆さんも、もう居ない筈だけど....。

助けて貰って有り難かったけど、お爺さんちは駅の反対側に行ったでしょ?
また駅前に着くのに25分掛かって、そこから自転車まで25分。
かなりへこたれて辿り着いた自転車と、屋根代わりに貼ったシートは雪に埋もれていた。

荷物の中の食品はカラスか何かに荒らされていて、
殆ど何も食べていなかった僕は半べそだったよ。

漸く荷物をくくりつけて、走り出したけれど、
房総半島の山中横断ルートは、結局、雪道を押していくばかりになった。


<駅での話は終しまい>

 *記事内の写真の順番を入れ替えました。 スイマセン。
 それから、こんな話面白いか? と云うと微妙よね。 うん、解ってる。
 でも母親は「あの時こんな所まで来たんだね。そんな事もあったね。」
 と笑いながら聴いているのだった。 まぁ話の種にはなったかな。




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