少年は自由に向かってため息をつく

 田舎の子供だった僕の移動手段は、徒歩か自転車。
ランドマークは、小さな壊れかけたポンプ小屋だった。

小学生の僕には、その先に見えている鉄塔と、大きな水門は、
1人で訪れてはいけない危ない場所だったから、そこは夕陽が沈んでく場所で、
冬の澄んだ空気の頃には富士山が遠くに見える側だった。



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 高校生になって写真部に入った。
詰めてあったのは、学校の暗室で現像出来るモノクロフィルム。

何か「素敵なモノ」や「印象的なモノ」が撮れるんじゃないかしら?
そう思ってフラフラしてみたけれど、
写っているのは、何時も見ている変わらない田舎の風景だった。



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何時かここを出て行くんだ。 漠然とそう思っていた。
都会への憧れじゃなくて、此処にずっといるのは無理だなって....。
だから、取りあえず面接に行ってみた会社で、今の仕事に繋がった。
.....ホントはそれと違う職種希望で行ったんだけど。

その会社自体は1年で辞めてるのに、
色々有りつつも仕事は続けてるんだから、何があるかは判らない。



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自分だけが出て来たから、当然親や兄はいた。
だから時々実家に戻るんだけれど、
いつの間にか「帰る」のは、今住んでいる場所になってた。
出てからの方が長くなって、親がいるから戻る場所になってた。




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大人になった僕のカメラは、格段に高価で高性能になっていたけど、
朽ち果てた僕のランドマークと、その先まで進んで撮ってみた写真は、
やっぱりあんまり印象的でもない田舎の風景だった。

腕も、捉え方も、感じ方が成長していないからかもね。
相変わらず1人でフラフラ歩いてるし。
田舎でも怪しい人ではあるんだろうな、
写真なんか撮ってると尚更だよ。



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 夕陽そのものは雲に隠れてしまっていた。

塔下まで辿り着いて、夕空を見ると飛行機が飛んでた。
キリが無い位に飛行機はやって来るけど、
此方側を飛ぶのは結構少ないから珍しいのかな?


父がいなくなり、母も今はここに住んでいないから、
このところ訪れる事もなくなった。
地元の友達付き合いもして来なかったから、
そのうち僕は
「何処の誰さん?」
と言われる様になるんだろうね。



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 コレと云った特徴も、自慢できるようなモノも無い、微妙な田舎風景。
今でも住んでる人には失礼かしらね....。

多分、僕はここで、誰よりも多感な少年時代を送ってたと思う。
だって、他に写真なんか撮ってる風変わりな地元民なんて見た事無いもの。
「何撮ってるの?」
それで終わってしまう微妙な風景。



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#ライカ#川#風景